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依頼者保護給付金制度の是非

2016.08.29

 

 依頼者保護給付金制度の一番の問題は、目的と手段が合致していないことです。

 「依頼者保護」という名前からすれば、いかにも依頼者保護のための制度のようで耳障りは良いですが、依頼者の保護にはなりません。
 なぜなら、被害金額が全額戻ってくるわけではないからです。
 あくまでも給付金は500万円(弁護士1人につき2000万円)までしか出ないのですから、その上限を超えた被害金額、上限を超えた後に発覚した被害者等一定の要件を満たさない被害者は、全く被害救済されない場合もあります。
 
 財産というのは、その人の人生そのものです。
 遺産や不労所得等で財産を形成した奇特な方を除いて、大半の人がその人の時間や労力、精神的負担等々を費やして、あるいは、節約に節約を重ねて財産を少しずつ貯蓄していきます。
 1万円であれ、2万円であれ、その人の人生を奪っているに等しいのです。
 
 500万円までお見舞金を出しさえすれば、それを超える被害が出ていても、その人の被害が癒されるわけではないと思います。

 また、仮に、全額被害弁償されたとしても、被害回復までの間に受けた精神的損害や弁済期の到来したものが支払えなかったことにより生じた損害等々一旦侵害されたことで取り返しのつかない被害が生じてしまいます。
 
 一旦侵害された人権を事後的救済措置で償えるわけではないのです。
 
 また、依頼者保護給付金制度によって弁護士の信頼が回復するわけでもありません。
 そもそも依頼者保護給付金制度は、弁護士の依頼者の人権が弁護士の不祥事により侵害され得ることを前提にしている段階で、もはや制度趣旨が破綻していると言えます。
 
 依頼者保護給付金制度は、まさに弥縫策にすぎないのです。

 一番重要なことは、弁護士が不祥事を起こさない、弁護士の不祥事を根絶することこそが最も喫緊の課題だと言えます。
 
 依頼者保護給付金制度の財源は、弁護士が毎月納める会費となっています。
 
 弁護士の不祥事案件による被害額はきわめて高額で、かつ、増加傾向にあります。
 だからこそ、依頼者保護給付金制度なる制度の創設が議論されるようになっているのですが、今後も弁護士は急増し続けます。
 その結果、益々弁護士の経済的基盤が揺るがされることも明らかです。
 事件数は激減する一方です。高額な弁護士会費の支払いに汲々とする弁護士は益々増えるでしょう。
 
 それに伴い、依頼者保護給付金制度の予算が膨れ上がるであろうことは、誰の目からも明らかです。

 弁護士は、高額な弁護士会費を払わなければ、弁護士業務を営むことはできません。弁護士会費は、各県単位で金額が異なりますが、弁護士業を営むためには、年間50万円程度から(地域によっては)120万円を超える弁護士会費を納めなければなりません。
 これだけ弁護士が増え、所得が激減しているのですから、弁護士の不祥事をなくすためには、弁護士会費を下げるとの選択肢も真剣に検討しなければならないと思います。
 ところが、依頼者保護給付金の予算が膨らむことにより弁護士会費を下げることができなくなります。

 収入が減り、高額な弁護士会費(上納金)が増加すれば、弁護士会費を支払えなくなる弁護士が増加し、それに伴い弁護士の不祥事リスクも増えます。そうすると、益々弁護士会費が増え弁護士会費を払えなくなる弁護士が増え、不祥事リスクが増えるといった悪循環に陥ること間違いなしです。
 
 『羽鳥慎一モーニングショー』で菅野朋子弁護士が発言した「こんな制度で信頼回復につながるのか疑問」、羽鳥アナが「弁護士さんの収入が減っているという実情が裏にある。弁護士を増やしすぎた、そういう制度の問題点についても考えていかなければいけないとのコメントは、いずれも端的に正鵠を射たコメントだったと思います。
 
 

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