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依頼者保護給付金制度と弁護士自治

2016.08.30

 

 依頼者保護給付金制度の意見照会の冒頭には、「弁護士自治は,弁護士活動の根幹であり,これは断固維持しなければなりません。」と書かれています。
 すなわち、依頼者保護給付金制度の創設は、弁護士自治を守る見地から本制度が必要であるかのごとく記載されています。
 この意見照会の立場も分からないではありません。
 弁護士の不祥事が続き、弁護士制度に対する社会的信頼が揺らげば、「自治権を弁護士に任せているのが駄目なのだ。。」「弁護士から自治をはく奪すべき。」等々といった暴論が出てくるのは必至でしょう。

 しかし、弁護士の登録しているメーリングリスト等々では、
・ 依頼者保護給付金制度が導入されるようなことがあれば、弁護士会から離脱したい。
・ 別の弁護士会を作れないか。
・ 強制加入団体制度自体が不要と考える。
・ 誤った政策をとったことに真摯に向き合わず、自己批判することもなく、対症療法や弥縫策でごまかし続け弁護士自治を崩壊に追いやろうとしている。
等々といった意見が出されています。

 いかにも皮肉なことです。
 弁護士自治を守るために導入しようとした依頼者保護給付金制度が実は弁護士会の中から弁護士自治を破壊するための装置として機能しそうになっているのですから。

 私も平成12年11月1日のいわゆる3000人決議といった政策を掲げ多数決で可決された時には、「こんな弁護士会から離脱したい。」「どうしたら、第二弁護士会を作ることができるだろうか。」「弁護士をやめよう。」等々真剣に検討したものでした。

 依頼者保護給付金制度の財源は、弁護士の会費です。
 弁護士が不祥事を起こした際、当の不祥事を起こした人の財産が財源となるわけではありません。被害者に支払われる給付金の大半が、全く不祥事とは関係のない、真面目に業務を行っている会員(弁護士)の会費から支払われることになるのです。

 弁護士の業務はお互いに独立して営まれており、他の弁護士がどのような活動をしているかは事件の相手方にでもならない限り、わかりようがありません。
 弁護士は自主独立性が重んじられており、お互いの業務を管理監督する立場にはありません。
 従って、他の弁護士の不祥事を未然に防ぐのはほとんど不可能です。
 
 また、弁護士の所得は激減しており、高額な会費が経費負担として重く感じている弁護士は少なくありません。
 会費負担は、累進課税ではなく、地域による金額差はありますが、弁護士登録の年数によって誰しも同じ金額の負担となっています。
  
 依頼者保護給付金制度の財源が、司法改革推進派の人たち、あるいは、依頼者保護給付金制度を進めようとする人たちの寄付金で賄われるのであれば、誰も文句は言わないでしょう。
 
 弁護士にとって、高い会費を支払っているのは、弁護士自治が大事だから、弁護士が自治権を運営するための費用を何とか弁護士の会費から賄わなければならないからです。
 だからこそ、それがわかっているからこそ、一般会員は、どんなに経営が苦しくとも年間100万円前後の高額な弁護士会費について歯を食いしばって払っているのです。

 でも、いくら何でも人には限界というものがあります。

 司法改革の失敗を認め、反省して、逆の舵取りをするとか、表舞台から消えるというのであれば、会員も前向きに検討する余地はあるでしょう。

 しかしながら、そのような気配どころか、司法改革の失敗が露呈している現段階においても、未だ司法改革を進めようとしている人たち、しかも、潤沢な資産形成をした弁護士の面子や保身のために、何故罪もない一般会員の会費が使われなければならないのか、もう少し前提条件の整備や工夫等が必要なのではないでしょうか。

 そうでなければ、外から弁護士自治が潰される前に内側から弁護士自治が破壊されてしまうと思います。

  弁護士会が弁護士を痛めつける政策ばかりを行い、さらには、政策転換をすることなく、政策の失敗の尻拭いを一般会員にばかり押し付けるのでは、一般会員の理解を得ることは難しいと思います。

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