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法律新聞「日弁連会務執行方針に物申す」その5

2015.05.30

 

平成27年5月22日付「法律新聞」(第2094号)弁護士武本夕香子「寄稿 『日弁連の2015年会務執行方針に物申す』より引用

「 「責任感が必要です」とも書かれていますが、司法制度を担う法律専門家集団としての責任感は、体裁を取り繕うために「一貫性」や「継続性」を目指すのではなく、他者からどのように見られようとも司法改革による社会的弊害を是正すべく日弁連が立ち上がることで示されねばなりません。
その時が今なのです。
いや、今でさえ遅すぎると言えます。」


4 「4 社会に向けた実践活動を」について

 第4項では、
「事態を一歩でも二歩でも前に進めたい、改善したいと本当に願うのであれば、社会の理解と支持獲得のための実践活動にこそ、日弁連と弁護士会の持てる全ての力を投入しなければなりません。そのために、会員と弁護士会の心と力を一つに合わせる必要があります。」
と記載されています。

 この記載からは、自分たちは、「事態を一歩でも二歩でも前に進めたい、改善したいと本当に願う」が、自分とは異なる主張をする人たちは、「事態を一歩でも二歩でも前に進めたい、改善したい」とは望んでいないことが当然の前提とされているように読めます。
しかし、実際のところは、皆「事態を一歩でも二歩でも前に進めたい、改善したいと本当に願」っているのです。だからこそ、引けないのです。
法曹のトップが、たとえ含意としてでも異なる意見の者を根拠なく「事態を前に進める気がない者」のように誹謗したととられかねない方針には、賛成できるものではありません。

 それに続く
「社会の理解と支持獲得のための実践活動にこそ、日弁連と弁護士会の持てる全ての力を投入しなければなりません。そのために、会員と弁護士会の心と力を一つに合わせる必要があります。」の部分は、「会員と弁護士会の心と力を一つにして実践活動に全ての力を投入しなければならない」ということですので、「もう議論はするな、執行部の意見に賛成して実働だけしていればいいんだ」と読めます。
この基本姿勢で再三主張されてきた、つまりは、この基本姿勢の更に基本姿勢ともいうべき「議論の封殺」が、また主張されているようです。
「議論の封殺」を意図していると取れる文言が、こう頻出しては、それを曲解だとか、勘ぐりだとか、考え過ぎだとか言っても、それが説得力を持つことはないでしょう。
「理事会における議論の充実」を執行方針に掲げている村越会長の基本姿勢としては、不適切であると思います。

 また、最後の「会員と弁護士会の心と力を一つに合わせる必要があります」との部分ですが、総論的には正しいとしても、各論的には、司法改革を進める方向で「心と力を一つに合わせる」と言うのであれば、賛成できません。
これほどまでに司法改革の社会的弊害が出ているにもかかわらず、未だ司法改革を進めようとするのは、市民の利益には叶わないと考えるからです。

5 「5 司法と弁護士の未来を切り拓く」について

 表題は、前向きで明るいものになっています。

 しかし、第5項の内容は、
「司法の容量と役割を大きくすることを大命題とし、そのために、司法基盤の整備、司法アクセスの改善、活動領域の拡大、国際活動の強化、法曹養成制度改革」(中略)「弁護士自治の強化に、一体のものとして総力で取り組みます。下を向いてうなだれるのではなく、誰かのせいにして嘆いたり批判ばかりするのではなく、力を合わせて、私たちの手で司法と弁護士の未来を切り拓きましょう。」と記載されています。

 前段は、司法制度改革審議会の意見書の焼き直しで、ここでも司法改革を進めることがあらためて確認されています。
しかし、司法改革を進めてきた結果、弁護士自治は弱体化させられています。
司法改革を進めつつ「弁護士自治の強化」を図ることは極めて困難であることが既に実証されています。

 また、市民の利益を第一に考えるのであれば、「司法の容量と役割」は小さく済むようにする方が良いというのは、私が年来主張してきたことです。無用に事件が多い社会、不必要な裁判が多い社会が、市民の利益にならないのは当然でしょう。
それだけではなく、必要性がないのに、どの場面でも弁護士が出てくる社会も、市民の利益にはなりません。
本来は、市民が司法にかかわる必要がなく、安心して暮らせる社会を目指すべきです。
この議論の詳細を説明することはしませんが、第1項に記載されている「市民の利益」は、私には非常に難しい概念に思われます。

 後段の「下を向いてうなだれるのではなく、誰かのせいにして嘆いたり批判ばかりするのではなく」との部分も、特定の第三者に対する誹謗中傷のように受け取られます。」 (つづく)

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