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司法試験合格者数と職域問題

2010.09.09

 

 今日、司法試験合格の発表が行われるそうです。
 今年は、閣議決定で示された3000人を排出する年に当たりますが、何人の合格者が出るのでしょうか。

 2000人の合格者数でも、未だ半分近い弁護士が就職先を見つけられないのですから、3000人などといった合格者を出せば、就職できない弁護士が社会に溢れ、弁護士トラブルが急増することは目に見えています。
弁護士には事務所経費が毎月かなりの金額で必要となります。破産するわけにもいきません。
 弁護士のみ聖人君主でできているわけではないのです。

 巷では、「弁護士になるだけが道ではない。」とばかりに、弁護士を他の職業に就かせるようなキャンペーンが張られています。
 
 9月4日の日経新聞の朝刊コラムには「司法試験合格者数と職域問題」と題する文章が掲載されました。このコラムでは「合格者増の前提となっていた弁護士の職域拡大が進んでいないことなどを理由として、合格者数の抑制を求める声がでてきている。」と記載されています。
 しかし、この前提自体が誤りです。
 弁護士の職域拡大の議論は司法改革の前からありましたが、司法改革の時は「弁護士が職域拡大などしなくても、企業や官庁、過疎地等々世の中には弁護士に対する法的需要が溢れており、現在の弁護士数では追いつかない。だから急増させなければならない。」という議論を前提に弁護士の大幅増員が行われたのです。
 これは司法制度改革審議会や平成12年11月1日付け日弁連の臨時総会決議を見て戴ければ誰でもわかることです。
 
 このコラムでは未だに「企業や行政の内部で弁護士が活躍できる余地はいくらでもある。」と書いてあります。でも、企業や行政は、「弁護士は必要ない」とアンケートに答えています。事実、企業や行政が弁護士を大量雇用するなどといった実態はどこにも存在しません。京都弁護士会で行われたシンポでも官庁の方が「我々はジェネラリストを求めているのであって、弁護士のような専門家は要らない。」と明言されていました。

 筆者は、「国際機関での執務や海外進出する日本企業の支援などの国際業務も開拓の余地の大きい事業領域のはずだ。」と書いています。しかし、国際機関で働く弁護士は「少数」であることを筆者自身が認めているように、国際業務でも弁護士は必要とされていません。国際機関で働く弁護士が少数なのは、国際機関が弁護士を「必要」とせず弁護士を雇わないことが原因であり、弁護士の努力が足りないからではありません。
 国際機関で雇ってくれるのならば、借金を抱え家族を養わねばならないのに、就職先を見つけられない弁護士が巷に溢れる必要はないでしょう。
 弁護士の自助努力の問題ではありません。

 ところが、この筆者は「新しい業務分野で活躍できる弁護士になるためには大変な努力が必要だろう。しかし、大方の企業人はそういう苦労をして新規事業を立ち上げたり海外市場を開拓したりしてきたのだ。」などと弁護士の努力の欠如があたかも原因であるかのごとき断定をした上で、経済界を見習えとばかりの我田引水的主張を展開しています。
 繰り返しますが、弁護士の行き場がないのは、弁護士の努力が足りないからではありません。
 弁護士に対する現実的な需要がないからです。

 更に言えば、経済界の失敗は、現段階での司法改革の失敗よりも深刻です。
 にもかかわらず、経済界を見習えなどという傲慢な議論が展開できる日本経済に将来はないと確信しました。
 
  
 
 

 
 
 

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