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司法修習生の就職難(その3)

2010.08.27

 

 私がメーリングリストで「増員派の先生方のリストを修習生に就職先リストとして提供しましょう。」と申し上げたところ、某先生から「この期に及んでも増員を叫ぶ弁護士は無責任な人である。そんな人たちのリストを修習生に提供しても実際に修習生を採用するとは思えない。修習生にリストを期待をさせても失望させるだけ。現実的ではない。」とのご意見を頂戴しました。

 「未だに増員を主張する弁護士は無責任である。」との某先生のご意見には賛成できます。

 就職先のない新人弁護士を生み出すことに無感覚な弁護士は、人権感覚が鈍磨しているとしか思えません。 
 就職先なく新人弁護士が世の中に放り出されることがいかに新人弁護士にとって酷なことかは弁護士であれば誰でも容易に想像できる事柄だからです。

 就職先のない弁護士を多く世に輩出するというのは、新人弁護士が多額の借金を抱えて家族を養うことができなくなるというだけでなく、実際の事件に取り組みつつ弁護士業務を身に着けるべく、先輩弁護士からの指導を受ける機会(オン・ザ・ジョブトレーニング)を新人弁護士から奪うことを意味します。
  
 我々弁護士の仕事は、机上の勉強をすれば何とかなるというものではありません。1年や2年の司法修習生の研修のみですぐに一人前になれるというような簡単なものではありません。
 「弁護士のギルド」と批判されますが、我々弁護士の仕事は、まさに職人的業務なのです。
 すなわち、これまでは、通常、弁護士はどこかの法律事務所に就職し、先輩弁護士の仕事ぶりを見て、先輩弁護士から厳しく叱咤・指導されて3年から5年の実務訓練を経てやっと1人前になるというシステムでした。

 各地方によっては、これまでも、どこかの事務所に就職する慣習のないところもありました。そのような弁護士会は、「○○県弁護士会法律事務所」という感じで弁護士会全体が新人弁護士を指導・監督する体制ができていました。
 しかし、今は、弁護士同士が増えすぎてしまい、過当競争になり、共助するという雰囲気は次第に薄れつつあります。
 従って、これまでの即時独立弁護士の例と今の即時独立弁護士の例とは比較にならないのです。

 就職先の見つからない新人弁護士の激増は、多くの気の毒な新人弁護士を生み出すだけではありません。
 オン・ザ・ジョブトレーニングの機会のない新人弁護士が業務遂行に支障をきたすことは十分にありうることで、その場合は、依頼者市民に迷惑を掛けることになります。本来、人権救済的役割を期待される弁護士の弁護過誤により依頼者市民の人権侵害という事態が起こりかねないのです。

 どのように考えても、就職先のない新人弁護士を大量に生み出すことを平気で容認できる弁護士は、どのように考えても無責任で、かつ、「人権感覚が鈍い」と言われても仕方ないのです。

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