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3000人政策と法科大学院

2012.07.09

 

 昨日のブログで、「当初にあった司法試験合格者3000名はいまや実現される見込みは皆無に等しく」との神戸学院大学の研究科長のコメントを紹介しました。

 このように、法科大学院制度の失敗は、あたかも年間司法試験合格者数を平成22年ころに3000人にするとの政策(以下、「3000人政策」と言います。)が実現しなかったことに起因するかのような発言は、法科大学院関係者からよく聞かれます。

 しかし、3000人政策が実現していても法科大学院制度が潰れるであろうことは目に見えていました。というよりも、3000人政策が実現していた方が法科大学院制度は早く潰れていたことでしょう。

 我々は、3000人政策を阻止すべく頑張っては来ましたが、司法改革の失敗の顕在化を遅らせたという意味において、年間司法試験合格者数が2000人程度に抑えられているのは、司法改革の失敗や法科大学院制度の崩壊への延命措置となり、長い目で見ればかえって望ましくなかったのかもしれません。
 
 例えば、もし、3000人政策が実現していれば、昨年末の弁護士登録日における未登録者数は400人ではなく、2000人以上になっていたはずです。
 3000人政策が実現化せず、年間司法試験合格者数が2000人に押さえ続けられたからこそ、昨年の一括登録日における未登録者数が400人程度で済んだだけで、平成22年までに3000人の司法試験合格者数が出ていれば、就職未定者が年々累積し続け、一括登録日における未登録者数は、単純に1000人を上乗せした数では到底済まなかったであろうことが明白だからです。

 また、3000人政策が実現化していれば、若手・ベテランを問わず、多くの弁護士が経営難に追い込まれ、今以上に弁護士による事件漁りや事件数減少の一方での言いがかり訴訟急増による弊害が顕著に現れていたはずです。

 そうなれば、司法試験に合格してもほとんどの人が就職先がなく、弁護士の赤字経営を余儀なくされることが今よりもより派手にマスコミに取り上げられていたことでしょう。国税の発表により、弁護士の年間所得70万円以下の弁護士が平成20年から22年間の2年間で2661人から5818人へと2倍強に増えたことが話題になっていますが、3000人政策が実現していれば、弁護士の貧困問題がマスコミによりより広く喧伝されていたでしょう。
 
 このような問題がより明白になっていれば、法科大学院などといった時間的に、或いは、費用的に多大な負担を求められるところへ好んで行く人は(弁護士の子弟以外)、蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていたことでしょう。

 これまでに何度も申し上げましたが、法科大学院を出るまでに約1000万円程度の投資が必要になるのです。

 法科大学院は2年コース(法学部卒業を前提とした既修コース)と3年コース(非法学部卒業を前提とした未修コース)に分かれますが、どちらのコースにしても1年間の学費だけで100万円前後が必要となります。その他高い教科書代や予備校への費用、生活費等々を考えると法科大学院修了後3年間程度で合格したとしても、ざっと見積もって1000万円近い投資が必要となります。
 
 3年間の未修コースの法科大学院修了後司法試験合格まで5年間をフルに使ってしまう等すれば、1000万円を遙かに超えた費用がかかる可能性もあります。
 

 1000万円以上の投資をしても7割方投下資本を回収できない金融商品があったとしたら、あなたはそれでも投資しますか?

 法科大学院志願者は、6分の1に減少していますが、3000人政策が実現化していれば、その程度で済まなかったであろうことは誰が考えても明らかではないでしょうか。

 不合理な理由を挙げて自らの失敗を認めず、人のせいにするのは、教育者、否、人間としていかがなものでしょうか。



 

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