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法科大学院のカリキュラムの問題

2011.03.26

 

 法科大学院の問題は、ここまで述べたものに尽きるものではありません。

 法科大学院の授業には、憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法等基本六法以外の応用法学である経済法・知的財産権・行政法のみならず、弁護士倫理や要件事実といった実務についてから勉強すべき学科がカリキュラムに組み込まれています。弁護士倫理や要件事実などは、実務につくことが確実視されてこそ、あるいは、実務に就いてこそ真剣に勉強でき、身につくのであって、実務に就くかどうかもわからない段階で、このような実務的な勉強をしてもあまり意味がないと思います。でも、学生は、カリキュラムに組み込まれている以上、選択せざるを得ませんん。他方、その分基本的な法律の授業カリキュラムの割合はどうしても少なくなります。

 法科大学院には、法学部出身者を前提とする2年の既修コースと法学部出身を前提としない3年の未修コースとに分かれます。そして、未修コースの法科大学院へ入学するのには法科の科目試験がありません。法的知識が全くない人でも、法学系の学科に馴染めない人でも未修コースへ入学できるのです。

 法科大学院へ入学してからは、予習・復習・宿題・科目の試験勉強等々と目の前のことに追い立てられて、基本科目を体系的に勉強する暇などとてもありません。

 また、法科大学院の授業は、予備校のように講義形式で進めることは良くないこととされ、具体的な問題を解くことが中心の授業、あるいは、教授との問答、「ソクラテスメソッド」と言われる方法で進めるべきとされています。

 そのため、法科大学院生は、法律の枝葉的問題や応用的な問題ばかりを勉強させられ、基本的で、体系的な法律の勉強はほとんどできないようになっています。

 驚くことに、法律的知識が基礎からしっかり身につく方が珍しいといったカリキュラムになっているのです。

 そして、法科大学院を卒業したら司法試験を受けることができるのですが、5年間で3回しか司法試験を受験することはできません。これが受験回数制限(俗に「三振アウト」)と言われるものです。法科大学院生は、三振アウトに引っかかれば、それまで費やした莫大な時間と費用等全てを棒に振ることになります。そのため、法科大学院生は、とても精神的に落ち着いて勉強できる環境にはありません。

 不思議なことに、この受験回数制限は再び法科大学院に入学して授業料を納めれば復活します。すなわち、法科大学院に再入学すれば、回数制限がリセットされ、再び5年のうち3度の司法試験を受験することができるようになります。お金持ちの子弟はエンドレスに受けられることになるのです。
 受験回数制限は法科大学院の経済的利益にとってのみ合理性のある制度で、その他誰にとっても合理性の認められない制度です。
 
 ここまで来てお分かりの通り、法学部以外の出身者が法科大学院に入学したとしても、司法試験に合格することは大変難しく、そのため、未修コースは、法学部出身者で埋め尽くされ、他学部出身者が占める割合は年々減少傾向にあります。

 また、法科大学院での勉強や司法試験や予備校での勉強等の負担があまりにも重いため、仕事をしながら法科大学院に通学すると言うことは事実上不可能です。そのため、法科大学院へ入学する人は皆仕事を辞め、背水の陣でやってきます。

 仕事を辞めて、多額のお金と時間をかけて法科大学院に入学した後に、「自分には合わない。」「他の道へ行きたい。」と思っても、家族に迷惑をかけ、既に多額の費用と時間をかけているため、法科大学院や司法試験をやめて他の道に進むこともできません。三振アウトに引っかかれば全てを失い、多額の借金だけが残ります。仮に、司法試験に合格しても就職先もありません。

  法科大学院制度は、法曹になるための給源の多様性を高めるために設立されたとされています。
 しかし、年々法科大学院志願者は激減し、お金と時間を持ち合わせた人以外は入学できないとの傾向が強まっています。他学部出身者や社会人が目指す傾向も年々減少しています。
 論理必然ですが、法曹への給源は、司法改革前よりも、より狭まっているのです。
 
 法科大学院を卒業して、その後も数年間、司法試験の受験に費やすので、合格者の平均年齢は必ずしも旧制度と比較して若返っていません。

 法科大学院制度は、どこをとっても百害あって一利なしの制度です。
 それなのに、日弁連は、会員の信頼を裏切ってでも、何故、この法科大学院制度を死守しようとするのでしょうか。

 その答えは、弁護士に法科大学院の実務家教員が多数存在していることから、その実務家教員の既得権益を擁護するため以外に、今のところ私には見つかっていません。


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